現在ある作物品種は、どこまで肥料を吸収できるかという生理学的限界について、つまり、どこまでなら肥料を使って収量を上げることができるのか、ということを考慮しなければならない。
すでに何百万という農家が、現在の作物品種が効果的に利用しきれない量の肥料を与えている現状を考えると、将来の穀物収量の伸びをもう一度見直す必要がある。
予測チームにバイオテクノロジーの専門家がいれば、遺伝子工学に関する最新の評価を取り入れて、よりしっかりした予測が立てられよう。
つまりそれは、バイオテクノロジーを使って、今日よりも日照りや塩害、害虫に強い作物品種をどのくらい開発できるかについての予測である。
バイオテクノロジーの研究が始まって20年になるが、高収量の小麦やコメ、トウモロコシの品種を作り出すことにはまだ成功していない。
しかし、日照りや塩害、害虫に強い作物品種を開発するという面で、食糧増産の役に立てるかもしれない。
気候学者もチームの一員に迎えるべきだ。
農業が始まって以来、気まぐれな天候に対処しなくてはならないのは農家の常だった。
しかし今後は、気候変動にも対処しなくてはならない。
気温の上昇によって、天候パターンが現在より大きく変動する可能性がある。
たとえば、もっと強烈な嵐や長期にわたる日照りが起こるかもしれない。
近年、作物を枯らしてしまうほどの熱波の頻度が増えている。
1995年には、アメリカなどいくつかの主要な食糧生産国で、熱波のために穀物収量が減少した。
気候学者がいれば、大気中の二酸化炭素、その他の温室ガスの増加に伴って、熱波の頻度や強さがどうなるかを推定できよう。
これまでの農業予測には、地球の気候変動を考慮する必要はほとんどなかったかもしれないが、約1万年前に農業が始まって以来、ずっと続いてきた時代とはかなり異なる時代が始まろうとしている。
土壌浸食及び土壌喪失が、将来の土地の生産性にどのような影響を与えるかを推測する農業経済学者がいなくては、生産増加の見通しも甘くなってしまうだろう。
土壌浸食は徐々に進行するプロセスであり、表土の損失に関するデータがないこともあって、これまでの食糧生産予測のほとんどがこの影響をまったく考慮に入れていない。
水文学者は、水の使用について、特に潅概と食糧生産に回せる水の三里について、推定してくれるだろう。
また、主要な河川の汚染や枯渇の影響についても評価することができる。
水がなくては食糧は生産できないわけだから、将来の予測に水の要因が入っていないというのでは問題だ。
それから経済学者も必要である。
単に「これまでどおり」を前提にするのではなく、上述したように状況が変わって価格が上がれば、どのように生産側が反応するかを評価してくれるだろう。
たとえば70年代半ば、穀物価格が2倍に跳ね上がり、食糧の値段も上昇したことがある。
その時にはトロール船への投資が大幅に増え、結果として世界の漁獲量を押し上げることになった。
90年代後半の今、ふたたび食糧価格の上昇という同様の状況に直面している。
しかし、前回のように投資を増やしたとしたら、海洋漁場の崩壊を早めてしまうだけで、問題の解決にはならない。
将来の食糧供給や環境安全保障の戦略を考える際には、全体を見ることが必要だ。
次の世代に十分な食糧を保証するということは、単に農業だけの問題ではない。
これまでは十分な食糧を生産することは、農業関係省庁の責任だった。
農業政策を多少手直しして農業への投資を増やすことで、食糧安全保障の問題を軽減できることが多かったのである。
しかし今では、食糧と人口のバランスを取るには、家族計画を推進する人々の役割も農家と同じくらいに大きい。
また、エネルギーを扱う省庁の政策が、二酸化炭素の排出や将来の気候の安定を左右する。
つまり、将来の世代の食糧安全保障という点では、農業関係省庁の決定と同じくらい大きな影響力があるのだ。
日本は穀物の70%以上を輸入している。
なぜ食糧安全保障がこの上なく重要なのか、説明は不要だろう。
世界的に食糧が不足してしまったら、国内の穀物価格が高騰している国は、いくらお金を出されても輸出には何も回すものはなかろう。
将来を考えたときの最大の難問の一つは、すべての人々に十分な食糧と水を供給できるシステムを作ることだ。
いうまでもなく、食糧のニーズを満たしてはじめて、持続可能な経済を構築するという目標に向かうことができるからだ。
しかし、どうやったらよいのだろう?どこから始めればよいのだろうか?農業でできることはいくつかあるし、できることはやらねばならない。
今でも穀物の収量を大きく引き上げられる国はあちこちにあるし、これから耕作に回せる土地がいくらかあるところもある。
どのような優先順位で土地を利用すべきかを考え直す必要がある。
世界全体で見れば、この50年間のほとんど、食糧は生産過剰だった。
したがって、土地は「余っている」と見なされ、多くの土地が放置されたり、他の目的のために使われていた。
しかし、不足の時代に直面している現在、世界中の国が耕地を保護する政策を取らなくてはならない。
耕地の転用に対して重税を課す必要もあるかもしれない。
つまり、耕地をつぶして工場や家、ショッピングセンターやゴルフコースを建設しようとする者は、耕地の転用に対して税金を払うのである。
こうすれば、耕地以外の土地に建設できないかと再考するだろう。
また、たとえば中国では耕地を守るために、死者を埋葬ではなく火葬することを奨励している。
ベトナムでは水田を保護するために、ゴルフコース建設禁止の規制を行っている。
水利用の効率改善をはかるには、いろいろな手だてがある。
水は無料の資源と見なし、農業や工業、都市住民に、無料か名目程度の料金で提供している国があるが、真のコストを反映するよう、市場メカニズムの中で水を扱うようにしなくてはならない。
低所得者層を保護するための特別料金は設定するが、水を市場経済の中で取り扱うことにより、帯水層が枯渇しない持続可能なレベルまで水の需要を減らせるかもしれない。
このような市場メカニズムへの移行によって、潅概施設から家庭用品まで、より効率よく水を利用できる技術に対する市場が生まれてくるだろう。
潅概に回せる水が増えれば、食糧増産の見通し土壌浸食の問題にも、もっと強いアプローチをしなくてはならない。
日本では農地のほとんどが水田で、非常に注意深く管理されているので、土壌浸食は大きな問題にはなっていない。
日本は、耕地の保護に関して世界で最も成功しているモデルといってもいいかもしれない。
東京などの大都市にさえ、小さな水田が何百と残されている。
土地利用の区分け(ゾーニング)で水田を守ろうという日本の決意がありありと見える。
細心の注意を払って耕地を保護することによって、日本は、少なくとも主食であるコメについては自給自足を続けている。
しかし、その他の多くの国では土壌浸食は深刻であり、安定した食糧生産を確保するために立ち向かわなくてはならない問題だ。
土壌保全留保計画を持つアメリカは、この分野で世界の先陣に立っている。
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